複線の下り線を逆走する上り電車

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[場所]東海道本線 垂井-関ヶ原
タイトルを読むと何かとんでもない場所の紹介のように思えるが、種を明かせば、東海道本線の南荒尾信号場-関ヶ原 間の上り本線に並行して敷設された線路は下り本線ではなく、「垂井線」という東海道本線の支線で、そのうちの垂井-関ヶ原 間は双方向に走行できる単線線路になっていることを、タイトルではせっかくなので誇大表現してみたものだ。この表現は寛大にお願いしたい。
さてそれならば 、この区間の東海道本線の下り本線はどこにあるのか? 鉄道に詳しい方ならいまさらの話しだが、急勾配を緩和するために北に大きく迂回しており、現在は貨物列車や特急列車は、こちらの本線を通っている。

南荒尾信号場を名古屋側から西向きに眺めた前面展望。緑信号が垂井線で線路は左分岐、赤信号左が東海道下り本線(新垂井回り)で線路は直進、赤信号右は美濃赤坂線で線路は右に本線を渡ってさらに右分岐。
関ヶ原駅東方約500m地点から名古屋方(東向き)に見た上り本線の前面展望。線路は左が東海道上り本線、右が東海道下り本線(新垂井回り)、そのさらに右には架線柱などしか見えないが、垂井線がある。
ところで、そんな垂井線には、単線だと解らせてくれる上り旅客列車が定期で平日に2本、休日に1本ある(別に回送もある)。それは朝方の関ヶ原駅始発の電車だが、これは関ヶ原駅の配線の関係で下り本線から上り本線には渡れないために設定された逆走(正確にはこれも順走だが)列車で、下り本線から関ヶ原駅2番線に到着した電車は、折り返し垂井線を通って垂井駅まで上っていく。
では関ヶ原駅名古屋方の配線を眺めてみよう。

関ヶ原駅1・2番線プラットホーム名古屋寄り端からの名古屋(東)方の眺めで、車輛は東海道下り本線(新垂井回り)を走りくるEF210牽引の下り貨物列車。
上写真と同地点からの同方向の眺めで、車輛は垂井線を走りくる313系使用の下り普通電車。
関ヶ原駅3・4番線プラットホーム名古屋寄り端からの名古屋(東)方の眺めで、車輛は東海道上り本線を走り去る上り貨物列車。
上写真と同地点からの同方向の眺めで、車輛は東海道下り本線(新垂井回り)を走りくる681系使用の下り特急しらさぎ。なお、写真中央の一見渡り線に見えるレールは保線の機械用で、それらの置き場も兼ねている。
さらに上写真と同地点からの同方向の眺めで、車輛は垂井線を走りくる313系使用の東海道本線の下り普通電車。右2本の信号機のうち、左が「垂本出」、右は「下1出」で、撮影地点の都合もあって、実際に立っている位置はこの見掛けとは左右逆。
こうして眺めると、関ヶ原駅の3番線⇔4番線 間に渡り線を設ければ逆走(ではないが)せずに一般的な折り返しができると思うのだが、平日でも4本(回送を含む)の列車のために線路改良や、せっかくある信号設備の変更までする程の効果は少ないということだろうか。
では 垂井線 関ヶ原-垂井 間はナゼ双方向単線になったのか? 元々この区間は東海道本線の下り線として使用されていたが、最大25‰の上り急勾配があり、その勾配緩和のための下り別線を南荒尾信号場-関ヶ原 間(新垂井回り)に1944年(昭和19年)10月11日に開通させ、これにより旧下り線のレールは戦時中の鋼材確保のために撤去されたが、1946年11月1日に敷設し直して、この時に南荒尾信号場-垂井 間が下り専用、垂井-関ヶ原 間が双方向単線として復活させたのがいまの形になっている。
それでは垂井線の双方向単線部分を前面展望で眺めていこう。とは言え、実は下り列車からのリアビューを逆に並べているので、信号現示がすべて「赤」なのは深く考えずに見ていただきたい。

関ヶ原駅東方約500m地点から名古屋(東向き)に眺めた垂井線のリアビュー。関ヶ原始発の電車からの前面展望はこのように見えることだろう。
東京起点422.4km付近からの名古屋(東向き)に眺めた垂井線のリアビュー。左の緑信号は東海道上りで、右の赤信号が垂井線上り。
東京起点420km付近からの名古屋(東向き)に眺めた垂井線のリアビュー。左の黄信号は東海道上りで、右の赤信号が垂井線上り。
垂井駅米原方の場内信号機。上左は「上本」で1番線、上右は「垂本」で3番線、下左は上り本線からの2番線、下右は垂井線からの2番線の信号。
垂井駅の平日上り列車時刻表。2番線発着が垂井線の関ヶ原駅からの電車になる。
垂井駅の関ヶ原(西)方から垂井線を走りきて2番線へ進入する313系使用の上り普通電車。タイトル写真との連写になる。
垂井駅の名古屋方の配線も一見の価値がある。それは3番線(海側)からも上り線へ発車できるようになっている点だ。とまぁそれなら大して珍しいことではないだろうが、ここの場合、垂井下り線から2番線へは進入できない造りになっている。垂井駅の下り線には貨物列車も特急列車も通らないので、ダイヤ乱れによったりする下り列車同士の通過待避などがないと見越しての配線だと思うが、ここまで割り切ったのには畏れ入る。

垂井駅の2番線から名古屋(東)方へ発車していく313系使用の上り普通電車。信号機は左は「本出」で、 右が「中出」。右の3番線からも上り本線へ出発できる配線なのが見てとれる。
上写真には3番線からの出発信号機が写っていないが、実はプラットホーム寄りのところに立っている。番線表示標は「垂本上出」。

ここに掲載の内容はアップ日時点の情報になります。その後に状況の変化や、変更があった場合にはご容赦ください。

[寄稿者プロフィール]
秋本敏行: のりものカメラマン
1959年生まれ。鉄道ダイヤ情報〔弘済出版社(当時)〕の1981年冬号から1988年までカメラマン・チームの一員として参加。1983年の季刊化や1987年の月刊化にも関わる。その後に旧車系の自動車雑誌やバイク雑誌の編集長などを経て、2012年よりフリー。最近の著書にKindle版『ヒマラヤの先を目指した遥かなる路線バスの旅』〔三共グラフィック〕などがある。日本国内の鉄道・軌道の旅客営業路線全線を完乗している。