単純トラス鉄道橋梁が転身した長大スパン跨線橋

鉄道が主役の旅スタイルを応援する見どころ案内

[場所]JR関西本線 名古屋-八田など

JR関西本線の名古屋口側、名古屋-八田間に本線系の線路とJR名古屋車両区などの車庫線を跨ぐ単純トラスの長大な跨線橋が架かっていることを知っている方は多いだろう。この橋梁は「向野橋(こうやばし)」という名前を持っていて、眼下を走る列車を眺められる名所として中京では有名な、魅力のスポットになっている。
ちなみに、その「向野橋」のトラス部分だが、この場所に架橋される前には、鉄道橋梁として別の場所に架かっていたという前歴を持つ。ということで、その辺の雰囲気に触れたいのもあって訪ねてみた。

向野橋を南南東側の袂から眺めたところ。画面中央の橋脚は名古屋臨海高速鉄道あおなみ線とJR関西本線の間に立っている。車輛はJR名古屋車両区に佇むキハ85系。
向野橋は1930年(昭和5年)、当時の鉄道省がこの場所に名古屋機関区を設置した時に、線路の南北を結ぶために架けられた。とまあそこまでなら良くある話だが、この向野橋のトラス桁部分は、上にも記したが鉄道橋梁として造られた橋桁をこの場所に移設したもの。
元々は、現在は嵯峨野観光鉄道になっている元・国有鉄道京都線→山陰本線の保津川に架かっていた旧橋桁で、USAのA&Pロバーツ社で製造され、同区間を開業させた当時の京都鉄道により1899年(明治32年)に保津川橋梁として架橋されていた。当時は日本最長のスパンを誇っていたという、そんな栄誉ある橋桁だが1928年(昭和3年)に架け替えられ、その旧橋桁が現在地に移設転用された経緯を有する。
なお、単純トラス橋や橋のスパンについては2017年11月29日アップで「単純トラス橋梁としては1径間 日本最大スパンの橋梁」(←その記事はココをクリック)として近鉄京都線「澱川(よどがわ)橋梁」を紹介しているので、合わせて読んでいただけるとありがたい。

向野橋を南側の袂から眺めたところ。手前の下路プレートガーダーの腹板の垂直補剛材の上下端が曲げてあるのは英国設計の特徴でもある。
トラス桁を南南東側から眺めたところ。下路式曲弦プラットトラスピン結合で、いまは路面にはアスファルト舗装がなされた床構造。
トラス桁を北北西側から眺めたところ。現在は歩行者&自転車専用になっている。
場所は名古屋臨海高速鉄道 ささしまライブ駅から西南西に500mほどの地点にあり、鉄道利用で訪れるなら近鉄名古屋線 米野駅からが西南西へ400mほどの一本道なので行きやすい。

トラス橋桁上から東南東方の眺め。画面中央やや左に 名古屋臨海高速鉄道あおなみ線 ささしまライブ駅が遠望できる。手前の車両はキハ85系貫通側。
トラス橋桁上からの上写真の反対側、西南西方の眺め。眼下にJR名古屋車両区が眺められる。手前の車両はキハ85系非貫通側。
そして向野橋の見どころは、先にも述べたが他にもある。それはこの橋が名古屋臨海高速鉄道あおなみ線とJR関西本線・JR名古屋車両区を跨いでおり、したがって眼下にそれらの車輛を眺められ、さらに北に目をやれば近鉄名古屋線を走る電車も望むことができる魅惑のスポットでもある点だ。
では、どんな列車が見られるのか眺めていこう。

南南東側に架かるプレートガーダー橋上からの南西方の眺め。走行車輛は名古屋臨海高速鉄道1000形。
名古屋臨海高速鉄道の線路には、その先の 荒子-南荒子 間にJR貨物の名古屋貨物ターミナル駅があるので、貨物列車もやってくる。写真はDD51形DL牽引のコンテナ列車。
上写真の位置からの反対向き北東方の眺めで、右から10本め(渡り線を除く=以後4枚とも)の線路が関西本線の上り線。そこを走っている車輛はキハ75形使用の快速「みえ」。
右から9本めの関西本線下り線を走る313系。
右から8本めの名古屋臨海高速鉄道あおなみ線上り線より南南西(画面右)側はプレートガーダーの下になる。その線を走りゆく名古屋臨海高速鉄道1000形。
右から7本めの名古屋臨海高速鉄道あおなみ線下り線を走りくる名古屋臨海高速鉄道1000形。
名古屋臨海高速鉄道あおなみ線下り線にも貨物列車がくる。写真はEF66形EL牽引のコンテナ列車。
向野橋の諸元は橋長119m、橋幅5.5m、そのうち移設転用された橋桁部分は下路式曲弦プラットトラスでスパン85.3m。この橋には北北西側に近鉄名古屋線の跨線橋も連なっているのだが、上の数値を見る限りでは3径間としては量られておらず、こちらは「向野橋」のくくりには入っていないのかも知れない。

北北西側の近鉄名古屋線の跨線橋部分は、トラス橋桁とはRCラーメン橋を介して離れているので「向野橋」とは呼ばれないのかも知れないが、紹介しておこう。北北西袂付近から南向きに跨線橋を眺めたところで、走行している車輛は近鉄30000系ビスタカー使用の特急。
近鉄名古屋線の跨線橋上からの北東の眺めで、線路の先に米野駅がある。車輛は近鉄9000系使用の普通。
なお、向野橋は2011年に名古屋市の「認定地域建造物資産」に認定、2016年に土木学会の「選奨土木遺産」に選奨されている。

ここに掲載の内容はアップ日時点の情報になります。その後に状況の変化や、変更があった場合にはご容赦ください。

[寄稿者プロフィール]
秋本敏行: のりものカメラマン
1959年生まれ。鉄道ダイヤ情報〔弘済出版社(当時)〕の1981年冬号から1988年までカメラマン・チームの一員として参加。1983年の季刊化や1987年の月刊化にも関わる。その後に旧車系の自動車雑誌やバイク雑誌の編集長などを経て、2012年よりフリー。最近の著書にKindle版『ヒマラヤの先を目指した遥かなる路線バスの旅』〔三共グラフィック〕などがある。日本国内の鉄道・軌道の旅客営業路線全線を完乗している。