鉄道隧道の現役最古参 清水谷戸トンネル

鉄道旅を一層たのしくする車窓・施設案内シリーズです。
JR東海道本線 横浜-戸塚 清水谷戸トンネルをご紹介

最初のトンネル

鉄道トンネルで日本最初に作られたのは官設鉄道(現・JR東海道本線)住吉-三ノ宮間にある石屋川隧道(兵庫県神戸市東灘区)で、供用開始は1874年(明治7年)の同区間開業からなので、芦屋川隧道・住吉川隧道も同じ歴史を持っていることになるが、石屋川隧道は開業より3年前の1871年(明治4年)に完成していたため、これが日本で一番古い鉄道トンネルになる。しかし、1919年(大正8年)に、複々線工事のため現役を引退した。

横浜,戸塚間にある清水谷戸トンネルとは

ちなみに、上記では『隧道』(ずいどう)という文字を使用しているが、古くは日本では『隧道』(ずいどう)という呼び方をしていたが、この区間が開業した時から『トンネル』という言葉が一般に使われるようになった、という記録もある。
では、それならば日本で現在も使用されている現役最古参の鉄道トンネルはどこかというと、JR東海道本線 横浜-戸塚間にある清水谷戸トンネルで、建設順位では17番目にあたり、1887年(明治20年)に竣工している。

清水谷戸トンネルの戸塚方の坑門。左の上り線で使用しているほうが現役最古参のトンネルで、側壁が垂直な逆U字形をしているのが特徴。列車は231系使用の普通小金井行。
清水谷戸トンネルの戸塚方の坑門。左の上り線で使用しているほうが現役最古参のトンネルで、側壁が垂直な逆U字形をしているのが特徴。列車は231系使用の普通小金井行。


1887年というのは、官設鉄道(当時)横浜-国府津間が開業した年で、これにより新橋駅から国府津駅までがつながったわけだが、同区間ではトンネルは清水谷戸トンネル1つしかないので、結果これのみが現役で最古参のトンネルということになる。ちなみにこの時に掘られたのは上り線側で、タイトル写真でいうところの左側のトンネルになり、右側の下り線のトンネルは1898(明治31)年の竣工になる。

戸塚方の坑門を遠望。どの位の山なのかが判ろう。列車は251系使用の特急踊り子。
戸塚方の坑門を遠望。どの位の山なのかが判ろう。列車は251系使用の特急踊り子。

戸塚方の坑門近くに設置されていた清水谷戸トンネルの案内板。
戸塚方の坑門近くに設置されていた清水谷戸トンネルの案内板。

このトンネルの戸塚方の坑門を見に行くにはJR横須賀線 東戸塚駅からが至近で、横浜方向に600mくらい歩くと見える場所に辿り着く。途中には案内板が設置されており、上にこの案内板の写真を載せているが、文字が読みづらい部分もあるので、改めてそこに書かれている文章をここで紹介しよう。

「東海道本線 横浜-戸塚間 清水谷戸トンネル 延長213.7m 横浜市
 上り線のトンネル(左側)は明治20(1887)年に工部省鉄道局によって建設されました。
 これは鉄道トンネル建設順位においては17番目にあたり、現役としては最古の鉄道トンネルです。
 下り線のトンネル(右側)は明治31(1898)年の複線化工事にともなって建設されました。
 両トンネルの側壁部は、当初レンガ造りでしたが、大正14(1925)年の電化工事にともなってコンクリート造りに改築され現在にいたっています。
平成3年3月 JR東日本 歴史的建造物調査委員会」

トンネルは武蔵と相模の国境に

さて、新橋-国府津間ならトンネルがまだありそうだが、上にも書いたが、トンネルはここにしかない。では上記の区間で、何故ここだけにトンネルがあるのか。それはここに山があったからだが、しかし両坑門ともに横浜市なのに何故ここに山が立ちはだかっているのか。
実は、同じ横浜市といえどもこの山は、北が武蔵国で、南は相模国と、旧国名でいうところの国境なのだ。よって東京湾水系と相模湾水系の分水嶺にもなっており、電車はちょっとした峠越えをしていることになる。
この山が旧国の国境の峠であったことはトンネル上を歩くと頂上付近には『境木地蔵尊』という名のお地蔵様が祀られていたり、武相国境之木が立っていたりと、その名残りを見ることができる。ちなみに、現在は保土ヶ谷区と戸塚区の区境であり、分水嶺であることを再認識させてくれる。

電化も考慮されていた清水谷戸トンネル

清水谷戸トンネルが現在も使用されている理由には、電化に耐えうる断面を持っていたことに他ならない。横浜-国府津間が電化される1925(大正14)年よりも38年も前に、将来の電化を考慮して工事を進めた明治の先人の先見の明には頭が下がる思いだ。

清水谷戸トンネルの横浜方の坑門。右の上り線で使用しているほうが現役最古参のトンネル。列車は231系使用の普通小金井行。
清水谷戸トンネルの横浜方の坑門。右の上り線で使用しているほうが現役最古参のトンネル。列車は231系使用の普通小金井行。

横浜方の坑門の上には幹線道路である横浜市道環状2号線が通っている。
横浜方の坑門の上には幹線道路である横浜市道環状2号線が通っている。

清水谷戸トンネルの真上が保土ヶ谷区と戸塚区の区境になっている。
清水谷戸トンネルの真上が保土ヶ谷区と戸塚区の区境になっている。

アイス食べながら電車を眺められるスポット

余談になるが、この区間を並行する横須賀線がこの峠を越えるトンネルは品濃トンネルいう名で、清水谷戸トンネルとは少し間隔が開いている。そしてトンネル坑門戸塚方のこの2線の間には牛舎がいまなお存在しており、その傍らではこの牧場直営のアイス工房まであり、横須賀線を走る電車を間近に眺めながら、搾りたての生乳で作ったソフトクリームやジェラートを食することができる。夏にはお誂え向きの電車ビュースポットだろう。
肥田牧場アイス工房メーリア
http://merria-farm.com/

[寄稿者プロフィール]
秋本敏行: のりものカメラマン
1959年生まれ。鉄道ダイヤ情報〔弘済出版社(当時)〕の1981年冬号から1988年までカメラマン・チームの一員として参加。1983年の季刊化や1987年の月刊化にも関わる。その後に旧車系の自動車雑誌やバイク雑誌の編集長などを経て、2012年よりフリー。最近の著書にKindle版『ヒマラヤの先を目指した遥かなる路線バスの旅』〔三共グラフィック〕などがある。日本国内の鉄道・軌道の旅客営業路線全線を完乗している。

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